「どうせ自分は」から抜け出す 自分を責める思考パターンを手放すためのヒント
なぜ、私たちは自分を責めてしまうのでしょうか
責任感が強く、真面目な方ほど、何かうまくいかないことがあると、つい自分を責めてしまう傾向があるようです。過去の失敗を繰り返し悔やんだり、「あの時こうしていれば」と考えたり、部下や組織の不調を自分の責任だと感じすぎたりすることもあるかもしれません。
こうした「自分を責める」思考は、心を重くし、行動力を奪い、時には体調にも影響を及ぼします。頭では分かっていても、なかなかこのパターンから抜け出せないと感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
この記事では、私たちが自分を責めてしまう背景にある「思考のパターン」、心理学でいうところの「認知の歪み」に焦点を当てます。そして、これらの思考パターンに気づき、より建設的な考え方へと変化させていくための具体的なヒントをご紹介します。自分を責める習慣を手放し、心が少しでも楽になるための一歩を踏み出すきっかけとなれば幸いです。
自分を責める思考につながる「認知の歪み」とは
「認知」とは、出来事をどのように捉え、解釈するかということです。「認知の歪み」とは、事実とは異なる偏ったものの見方や考え方のパターンを指します。私たちは皆、多かれ少なかれこうした「思考のクセ」を持っていますが、特に自分を責めやすい方は、特定のタイプの認知の歪みが強く現れることがあります。
ここでは、自分を責める思考につながりやすい代表的な認知の歪みをいくつかご紹介します。
- 全か無か思考(白黒思考): 物事を中間のない両極端(成功か失敗か、善か悪かなど)で捉える考え方です。例えば、少しでもミスをすると「全てがダメだ」と感じ、自分を全否定してしまいます。
- 過度の一般化: 一つのネガティブな出来事から、「常にこうだ」「何をやってもうまくいかないだろう」と、全てに対して悲観的な結論を導き出す考え方です。「一度失敗したから、自分は昇進できないだろう」のように、個別の出来事を普遍的なパターンとして捉えます。
- 心のフィルター: ポジティブな側面に目を向けず、ネガティブな側面ばかりを強調して捉える考え方です。たとえ成功体験があっても、些細なミスや批判だけが心に残り、自分には能力がないと感じてしまいます。
- 結論の飛躍: 十分な根拠がないのに、ネガティブな結論に飛びつく考え方です。特に「心の読みすぎ」(相手が自分を軽蔑しているに違いない)や「先読み」(きっとうまくいかないだろう)といった形をとることがあります。
- 自己関連付け(個人化): 自分にはほとんど、あるいは全く責任がない出来事に対して、自分に責任があると思い込む考え方です。例えば、部下のミスを「自分の指導力不足のせいだ」と過剰に自分に引きつけて考えてしまいます。
これらの思考パターンは、現実を正確に反映しているわけではありません。しかし、私たちはしばしばこれらの歪んだ思考を「真実」だと信じ込んでしまい、その結果として自分を責めたり、落ち込んだりするのです。
自分を責める思考パターンに気づき、働きかけるステップ
自分を責める思考パターンを手放すためには、まずその存在に気づき、次にそれに建設的に働きかける練習をすることが有効です。認知行動療法(CBT)の考え方に基づいた基本的なステップをご紹介します。
ステップ1:自分の思考パターンに気づく
自分を責めていると感じた時、具体的にどのような考えが頭の中に浮かんでいるのかを観察します。
- どのような状況で、自分を責めてしまうのか
- その時、頭の中でどのような言葉が繰り返されているか(例:「私が悪い」「私には向いていない」「きっとこうなるに決まっている」など)
- その思考によって、どのような感情(悲しみ、怒り、不安、恥など)が生まれるか
- その思考によって、どのような行動(引きこもる、諦める、過剰に努力するなど)をとるか
これらのことを、心の中で観察するだけでなく、書き出してみることも非常に有効です。「思考記録」をつけることで、自分の思考のクセをより客観的に把握できるようになります。
ステップ2:思考を「真実」として鵜呑みにしない
頭に浮かんだ思考は、あくまで思考であり、事実とは異なる可能性があります。「自分はダメだ」という考えが浮かんだとしても、それはあなたが本当にダメだという事実ではなく、「自分はダメだ」という考えが今、頭に浮かんでいる、という出来事にすぎません。
思考を「事実」ではなく「単なる思考」として捉える練習をします。これは、マインドフルネスの練習にも通じる視点です。思考に巻き込まれず、少し距離を置いて眺めるイメージです。
ステップ3:思考を吟味し、別の視点を探る
気づいた思考パターン、特に自分を責める思考に対して、いくつかの質問を投げかけてみます。
- その考えを裏付ける証拠は何かありますか?
- その考えに反する証拠はありますか?
- 他の可能性や解釈は考えられますか?
- もし親しい友人が同じ状況で同じように自分を責めていたら、何と声をかけますか? 友人にかける言葉を、自分自身にかけてみてください。
- その考えを持つことで、自分はどのような気持ちになり、どのような行動をとりますか? その考えは、自分が望む結果につながっていますか?
- もっと現実的で、バランスの取れた考え方はできませんか?
例えば、「部下のミスは全て自分の指導力不足だ」という考えに対して、「指導が行き届かなかった部分はあったかもしれないが、部下本人の経験不足や、想定外の外部要因なども影響しているのではないか」「過去には指導がうまくいったケースもあったのではないか」のように、多角的に検討してみます。
ステップ4:より建設的な思考を意識的に選ぶ
吟味した結果、元の思考が現実を正確に反映していない、あるいは自分にとって建設的でないと判断した場合、ステップ3で見出したよりバランスの取れた、現実的な考え方を意識的に採用します。
これは、ネガティブな考えを無理にポジティブな考えに「すり替える」ことではありません。根拠に基づき、より真実に近い、あるいは自分自身を不必要に傷つけない考え方を「選ぶ」ということです。
このプロセスは、自転車の乗り方を学ぶように、繰り返し練習することで徐々に身についていきます。最初は難しく感じても、諦めずに続けてみることが大切です。
自分に優しくあることの大切さ
これらの思考の働きかけと並行して、自分自身に優しく接する、「自己 Compassion(自慈心)」の視点を持つことも非常に重要です。失敗した時や自分を責めてしまっている時に、「どうして自分はこうなんだ」とさらに自分を追い詰めるのではなく、「今はつらい気持ちでいるんだな」「完璧でなくても大丈夫」と、苦しんでいる自分自身に寄り添う気持ちを持つことです。
自分を責める思考パターンは、長年の習慣として根付いていることが多いものです。すぐに手放すことは難しく感じるかもしれません。しかし、そのパターンに気づき、少しずつでも異なる視点を取り入れていくことで、心の状態は確実に変わっていきます。
自分を責めるのではなく、経験から学び、前に進む力を育んでいくために、今回ご紹介したヒントが、あなたの心の平穏につながる一助となれば幸いです。